NanoFrontier(株)は、東北大学発のスタートアップとして2026年春に創業された。東北大学で長年研究されてきた再沈殿法による有機材料のナノ粒子化技術を活用して、図1に示す様々な領域でナノ粒子応用ソリューションを提供しようとしている。本社およびラボは東北大学の片平キャンパス内にあり、技術開発は東北大学と密に連携して行っている。代表の井上誠也氏はAIソフトウェア開発やIT系の会社を起業した経験があり、CTOの岡弘樹氏は東北大学の多元物質科学研究所の准教授でもある。2人は2024年の暮れに知り合い、2026年4月に共同創業者としてNanoFrontierを立ち上げた。
今回のnano tech 2026では、水中の微量汚染物質をリアルタイムに検出する試薬として、独自の再沈殿法によりナノ粒子化した有機色素を水中に分散させた商品を中心に出展する。
再沈殿法は、東北大学で30年前から医薬品を作るために薬物をナノ粒子化する技術として研究開発されてきた。水に溶けずに凝集・沈殿する薬物を、ナノ粒子として水中に分散させる技術で、医薬品の体内への摂取を容易にすることができる。
NanoFrontierでは、この再沈殿法によるナノ粒子化技術を用い、種々の化合物を多様な液体中でナノ粒子化・分散させる独自開発の装置で量産している(図1参照)。

図1:「再沈殿法」を用いた様々な領域のソリューション開発
NanoFrontierのナノ粒子化技術の特徴は、粒子径を20~50nmで均一に制御でき、ソリューションに応じて粒子径・形状を容易に調整できる点にある。しかも、製造コストは低く、環境負荷も小さい。NanoFrontierではさらに、AIと大規模データベースを用いたナノ粒子生成シミュレーションツールを開発しており、ナノ粒子化のウエットな化学実験を大幅に削減し、最適なナノ粒子化製造プロセス条件を見出して、開発期間短縮・開発費用削減を目指している。
図1に示したソリューション開発の中で、NanoFrontierが現在最も力を入れているのが汚染物質検出事業である。特にPFAS(有機フッ素化合物)は、空調機用冷媒や半導体製造ほか幅広い分野で利用されているが、難分解・生体蓄積性・発がん性が問題視されており、日本では2026年に水質基準を50ng/L以下に厳しく強化しようとしている。この基準を満たすか否か検査するには、大型で高価な液体クロマトグラフィー質量分析装置を用い、濃度決定には現状は数日間以上を要している。低濃度のPFASを、リアルタイムに簡単に検出することの社会的ニーズは高い。

図2 : 有機ナノ色素を用いた特定PFASのリアルタイム検出方法
図2は、有機ナノ色素を用いた特定PFASのリアルタイム検出方法である。図2左に示したように、難水溶性の有機色素を再沈殿法によってナノ粒子化して水中に均等分散した試薬液を試験管内に用意しておく。微量の特定PFASを含んだ水溶液をスポイドから試験管に滴下すると、PFAS濃度に応じて試薬の色が変化する。図2右上は、PFAS濃度が低い最左の試験管から、PFAS濃度が高い最右の試験管まで、合計9本の試験管を並べて観察したものである。試薬が呈する色合いが、PFAS濃度の変化に伴って徐々に薄黄色から濃黄土色に変化している様子がわかる。この呈色変化を、ポータブル吸光光度計でPFAS濃度に変換して検出することができる。
NanoFrontierは、この有機色素をナノ粒子化して特定のPFASと選択的に反応する試薬を事業化している。現場で即座に測定可能な低コストソリューションとして、水道事業者や行政調査、工場排水など幅広い用途で活用されることを期待している。
NanoFrontierはnano tech 2026の展示ブース(AT-K07-05)だけでなく、同時並行開催されているInterAqua2026にも出展している(2S-S22)。
NanoFrontierでは将来の事業化に向けて、図1に示した様々な領域でソリューションを顧客と共創して開発している。例えば図1に挙げた冷却液事業においては、AIデータセンタでの消費電力抑制に貢献する冷却液性能の引き上げを目指した開発を大手企業と組んでプロジェクトに着手している。

図3 : ナノ粒子を含んだ冷却液によるAIデータセンタの冷却効率向上
図3に、ナノ粒子を含んだ冷却液による冷却効率向上の原理を示した。図3左は通常の冷却液が熱を帯びた半導体チップ上を流れる場合で、半導体と冷却液の接着界面では熱境界膜が形成され熱伝導率が低下してしまう。一方、図3右に示すようにナノ粒子を冷却液中に高濃度で分散させておくと、粘度を上げずに流れやすさを維持したまま境膜を破壊して熱伝導率を大幅に向上できる。
ご来場の皆様には、NanoFrontierの展示ブース(AT-K07-05)を訪れて、今回提案されているアプリケーションの共同開発や、この物質をナノ粒子化したい、液体にナノ粒子を入れたい、ナノ粒子を用いた新しいソリューションを開拓したいといった議論ができることが期待される。
(注)図はNanoFrontierから提供された。
小間番号 : AT-K07-05
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