Nano Insight Japan

【山形大学有機エレクトロニクスイノベーションセンター】
「ニーズファースト型」産学連携による フレキシブル有機エレクトロニクス基盤技術の研究実用化 ~有機薄膜太陽電池の社会実装による新市場の展開を狙う~

2023年1月27日

SND

山形大学有機エレクトロニクスイノベーションセンター(INOEL)は、産業・事業への貢献をファーストプライオリティに据えた新しい産学連携スタイルを標榜して2013年に設立された。INOELでは現在、有機EL、有機太陽電池、有機トランジスタ、フレキシブル技術、インクジェット、蓄電デバイスの6領域を研究開発の対象としており、特に、近年地球規模の課題となっている温暖化対策の観点から、また、これから商品展開のニーズが広がると考えられることから有機太陽光発電の社会実装に力を入れている。nano tech 2023では、INOELブースにおいてその活動の現状をご理解いただき、フレキシブル有機エレクトロニクスのこれから広がる応用分野について議論し、持続可能でスマートな社会実現への貢献に向けた事業展開の道に繋がることを期待している。

1.「ニーズファースト型」産学連携コンソーシアムの展開

参加企業21社を得てスタートした山形大学有機薄膜デバイスコンソーシアム(2013~2015年度)は、経済産業省補助事業「産学連携イノベーション促進事業(2013~2014年度)に採択され、有機EL、有機太陽電池、有機TFT等に適用できるフレキシブル基板・透明電極およびロールtoロール生産要素技術の開発を参加企業21社と共に行った。この成果を引き継いで山形大学フレキシブル有機エレクトロニクス実用化基盤技術コンソーシアム(2016~2018年度)が参加企業10社を得て運営された。2017年にはその活動が認められ内閣府の「第15回産学官連携功労者表彰」において「科学技術政策担当大臣賞」が授与された。これら成果を引き継いで2017年度からは山形大学フレキシブルエレクトロニクス産学連携コンソーシアム(~2023年度)、また山形大学フレキシブルエレクトロニクス日独国際共同実用化コンソーシアム(~2023年度)を運営している。後者は欧州一を誇るドイツザクセン州の有機エレクトロニクス拠点の企業・研究機関と連携している。
こうしたINOELの活動の源泉は、「ニーズファースト型」産学連携にある。INOELの教員は全員企業での研究開発・事業化の経験者であり、ビジネス視点に立った連携活動を行っている。大型の産学連携プログラムを複数推進しており、コンソーシアムの自主独立採算運営の実現を目指している。またこの間、文部科学省、JST、NEDOの各複数のプログラムにも参画している。
INOELでは現在、有機太陽電池、フレキシブル技術などの6領域を研究開発の対象としており、保有技術および装置としては、有機ELおよび有機薄膜太陽電池の作製及び評価、ロールtoロール技術および印刷技術、ガスバリア性評価装置などがあり、企業との共同研究・実用化に対応している。以下その取り組みの概要を、特にこれから新市場の展開が期待されるフレキシブル有機太陽電池を中心に紹介する。

2. 実証実験が進んでいるフレキシブル有機薄膜太陽電池

INOELは株式会社MORESCOとの共同研究で作製したフレキシブル有機薄膜太陽電池(OPV)を用いて実証試験を行っている。1 m×0.34 mの有機太陽電池モジュール8枚をINOELの2階の窓に貼り、この有機太陽電池が発電する電力で、日照量や温度、電流・電圧を計測し、そのデータを1階のディスプレイまで送信する実験をデモンストレーションも兼ねて行っている。現在INOEL内の製造設備を使ってMORESCO社が作製しサンプル出荷しているフレキシブル有機薄膜太陽電池の仕様の一例を表1に、その構造と製造工程を図1に示す。発電層を電子輸送層と正孔輸送層で挟む構成で、赤字で示すようにロールtoロール印刷技術で製造できる。そのため、一般的な太陽光パネルと比較して安価であり、製造時のCO2排出量が約1/5に削減し、環境負荷が低減する。更にフレキシブルで軽量であり、半透明という特徴を持つ。また、印刷による意匠付与・装飾が可能である。なお課題は、現状では変換効率が5%強であり、Si太陽電池の20%に比べて差が大きいことである。しかし、照度の低い室内等ではその差は縮むとのこと。いずれにしても、今後の進化に期待したい。

表1: フレキシブル有機薄膜太陽電池の仕様

図1: フレキシブル有機薄膜太陽電池の構造と製造工程

3. コンソーシアム活動におけるフレキシブル有機エレクトロニクスの実用化体制

製品を完成させるためには、その製品を構成する複数の要素技術を確立しこれらを統合する必要がある。図2は、フレキシブル有機エレクトロニクスデバイスを実用化するために必要な要素技術を分野に分けてリストアップしたもので、各要素を担当する企業間連携によって、要素技術を実用デバイスに適合する形で構築し、これらを垂直統合する必要がある。各企業の専門能力を活かし、また、企業出身で有機エレクトロニクスのエキスパートである大学教員が主導して、事業の推進を図っている。

図2: 異なる分野の企業(基材メーカ、材料メーカ、印刷メーカ、装置メーカ、デバイスメーカ等)が同一目標を目指す

設備面では、図3の装置群が、INOELに整備されている。印刷用を含むロールtoロール装置4台を始め、シートタイプ印刷装置、デバイス作製装置からガス透過率評価装置等の評価解析装置群まで実用化技術確立を見据えた装置を揃え、ユーザ企業ニーズに応える体制を整えている。

図3: INOEL内に整備されている主要装置

4. 今後の応用展開への期待

INOELが産学連携コンソーシアムで実用化を進めてきたフレキシブル有機薄膜太陽電池は、前述の通りロールtoロール印刷方式で作製するため従来のシリコン太陽電池に比べて安価であり、製造におけるCO2ガス排出量も一般の太陽光パネルに比較して1/5の低減が見積もられており、環境負荷が低減される。さらに、半透明で窓に貼り付けて使うことができ、軽量でフレキシブルといった特徴を有する。実証試験でデモンストレーションしたように、遠隔地で計測したデータを電池交換無しで送受信するシステムなど、IoT(物のインターネット)が普及するなか、デバイスやセンサー用の電力としての応用も期待される。先の実証試験で3年間の運用で電池の劣化が僅かなことも確認されている。
nano tech 2023では、INOELは、その活動と現状を来場の皆さんにご理解いただき、各企業の事業発展の課題解決に役立つ領域があれば共同研究等の協力関係を持つことで、企業の発展に貢献できること、延いては社会貢献できることを願っている。

(註)本文中の図はINOELから提供された。

小間番号 : 1L-10

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