Nano Insight Japan

【TDK】
革新的製法に基づく世界初の「厚み0.1mm程度」で「形状を問わない表面に形成可能」な「高性能マイクロ磁石」を開発 ~マイクロモータ試作を一例に、応用展開を期待~

2023年1月18日

TDk

TDK株式会社は1935年東京工業大学の加藤与五郎教授と武井武教授が発明したフェライトの工業化を目的とするベンチャー企業として東京電気化学工業の名前で設立され、後に1983年TDK株式会社に改名している。1968年カセットテープの開発販売、1980年積層チップインダクタ発売、1987年記録的高密度記録を確立した薄膜磁気ヘッド発売等、当初から磁性材料技術の強みを活かし、創造性を持って電子部品の開発を進めて成長を続けている企業である。
今回、nano tech 2023では、磁石製作において未開拓のサイズ領域(10 µm〜0.5 mm)の扉を開く新技術「高性能マイクロ磁石」を紹介する。形状を問わないCo(コバルト)の基材表面に厚み0.1mm程度のサマリウムコバルト(SmCo₅)磁石厚膜を均一に形成する技術である。焼結SmCo₅磁石に匹敵する高磁気特性を示している。更に、酸化等を防ぐ表面保護層が不要、大基板への形成や複数の小部品への同時形成も可能等の特徴を持っている。
この技術のデモンストレーション用に、直径数100 µmのCo棒表面に当磁石を形成し、また外形が直径1.5 mm、長さ14 mmのマイクロモータを試作して展示している。現在、新技術のビジネスに繋がる応用先を模索中で、TDKは、顧客・開発パートナーを探しており、また、斬新な技術のアプリケーションについての来場者との議論を期待している。

 

1. 新技術が扉を開く磁石の未開拓領域とは

図1に磁石の厚みについて従来の製法によりカバーできる値の範囲を示す。左から伸びている矢印は物理蒸着、右から伸びている矢印は焼結磁石の切削加工による磁石の厚みの範囲を示している。両者の間に空白領域と記した紙の厚さ程度の領域(10 µm〜0.5 mm)がこれまでの技術で作れなかった領域である。今回の展示は、この空白領域の磁石を提案するものであり、新しい応用展開が広がることが期待される。

 

図1:磁石の未開拓領域とは

2. 磁石の未開拓領域の扉を開く新製造法とは

図2に前記空白領域のサイズのSmCo₅磁石の製法を示す。図2左図に示すように、容器内で塩(NaClやLiCl)を500~700℃に加熱して溶融塩を作り、そこにSmを分散させたところにCoを基材として挿入し、数時間放置する。すると、Coの表面にSmが拡散して表面にSm とCoの金属間化合物が出来る。この段階で形成されているのは前駆体であるSmCo2であり、次に図2右図に示すようにこの前駆体で覆われたCoを約1000℃で熱処理することでSmCo₅磁石が出来上がる。この製法により、従来は困難であった厚み約100μmを実現可能であることに加え、任意形状の基材表面に均質な膜を形成できる。浴を大型化することで大基板への形成や複数の小部品への同時形成も可能であり、また、Sm-Co系磁石の特徴である高耐環境性と高耐熱性も有している。

 

図2:ブレークスルー技術によるSmCo₅磁石の製法

3.サマリウムコバルト磁石とその応用例のマイクロモータ試作例

図3左図にサマリウムコバルト(SmCo₅)磁石の構造を示す。円柱状のCo基材表面を厚み約100μmのSmCo₅膜が取り囲み、磁石の直径は数100μmである。本手法にて得られるSmCo₅膜の磁化容易軸は膜の成長方向に向く特徴がある。すなわち、円柱表面を覆うSmCo₅磁石の磁化容易軸は径方向であり、理想的なラジアル配向磁石を実現している。また、Co全てをSmCo₅磁石化せずにあえて残すことで、Coを磁気回路のヨークとして利用できる。
図3右写真は、このマイクロ磁石が磁力でクリップを引き寄せている実験写真である。

図3:SmCo₅磁石膜によるマイクロ磁石構造(左図)とマイクロ磁石によるクリップ吊り下げ実験(右図)

図4にこの円柱状のマイクロ磁石をRotor(回転子)として用いたマイクロモータ試作品をマッチ棒と大きさの比較をして示している。RotorのSmCo₅磁石の直径は0.94 mm、Stator(固定子)は外径1.5 mm、長さ14 mmである。このマイクロモータは、電流±120 mA、周波数17 Hzで駆動して1000 rpmのモータ動作を確認している。

図4:試作マイクロモータをマッチ棒と比較

図5にマイクロモータの構造を示す。図の右端はRotorとなるSmCo₅磁石の棒である。
その左にRotorを囲むStator側を形成する銅のコイルをフレキシブルプリント回路で形成し、これをその左のように筒状に丸める。通常はエナメル線を巻いたものをコイルに利用するが、今回は駆動電流が小さいことを活かしプリント回路を利用することで、小型化を追求した。これをその左の収納ケース(Housing)に収め、Statorを構成する。このRotorとStatorを組み合わせて図左端のマイクロモータを構築する。

図5:試作マイクロモータの構造

4. SmCo₅マイクロ磁石の応用展開

厚さが10 μm〜0.5mmの高性能マイクロ磁石はこれまでになかった新しい技術・材料であり、さまざまな応用展開ができることが予想される。試作マイクロモータはその一例である。TDKはさらに、図6のような応用も考えた。TDKは、顧客・開発パートナーを探しており、また、斬新な技術のアプリケーションについての来場者との議論も期待している。

小型アクチュエータ

小型角度センサ

磁気MEMS

さまざま立体物の表面磁化

図6:サマリウムコバルト マイクロ磁石の応用案

 

(註)図はすべてTDKから提供されたものである。

小間番号 : 1N-19

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