Nano Insight Japan

【Preferred Computational Chemistry(PFCC)】 
人工知能を用いて極めて短時間で高機能材料の化学組成とその物性を推定 新しいクラウドサービスを紹介

2021年11月26日

Preferred Computational Chemistry(PFCC)

人工知能(AI)開発を手がけるPreferred Networks(プリファード・ネットワークス=PFN、東京・千代田)とENEOSが共同出資するPreferred Computational Chemistry(プリファード・コンピュテーショナル・ケミストリー=PFCC、東京・千代田)は、人工知能(AI)を用いて高機能が期待される新物質の化学組成とその物性を極めて短時間で推定できるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)技術を紹介する。PFNとENEOSは、第一原理計算と呼ばれる理論的に材料の物性値を推算する手法と深層学習を組み合わせ、55種類の元素の様々な組み合わせに対応した、汎用原子レベルシミュレータ「Matlantis(マトランティス)」を開発した。Matlantisでは、1枚のGPUだと273年かかる量の計算を、PFNが保有する世界有数のスパコンを2年間使うことで、数千万の教師データを作成し、それらのデータを学習させた「学習済みモデル」を構築している。石油化学で用いる高機能触媒探索に利用したところ、従来手法の第一原理計算では20年かかるシミュレーションを1週間で終え、有望な化学組成の発見につながった。
 国内外で報告されているMIの事例の多くは、文献などで公開された限定的なデータを教師データとしている。Matlantisでは、汎化性を主眼に置いて教師データを集め、第一原理計算により直接的に種々の物性を計算する。そのため、従来は難しかった未知の物質も探索できる。また石油化学に限らず高性能な蓄電池や高強度の構造材料など幅広い産業分野での材料開発に応用できるとみている。
 2021年7月に物質探索のクラウドサービスとして「Matlantis」を開始した。素材産業に携わる民間企業(製造業など)や大学、公的研究機関へのサービス提供を開始している。ユーザーはパソコンからPFCCのクラウドサービスにアクセスし、検討したい材料の化学構造を入力して、そこから物性、反応などの挙動をシミュレーションする。PFCC技術者が、初期のサービス導入レクチャー、定期ミーティングによる利用サポート、日常的なご不明点の解消などを行う。将来的に、Matlantisの性能をさらに高めたり新分野への利用拡大を行ったりするため、様々な機関との共同研究も実施している。

 

利用例1「人工原油」用の触媒開発

ENEOSは、カーボンニュートラルの代替燃料「e-fuel」の開発を目指している。e-fuelは、工場や自動車から排出される温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)と水の電気分解で作る水素ガス(H2)から合成するため人工の石油とも呼ばれている。実現させるための大きな課題の一つは、CO2から生成する一酸化炭素(CO)をCとOにまで分解することだ。これまでの研究でコバルト(Co)などを触媒として用いれば分解できることは知られている。しかし分解のために消費エネルギーが高いため実用化していない。
 ENEOSはMatlantisを用いて、Co触媒を用いたときより低エネルギーでCOを分解する触媒の探索を行った。触媒であるCoの一部を様々な元素に置き換えて、COの分解しやすさを計算したところ、10~20%をバナジウム(V)に置き換えると、分解に必要なエネルギーを40%近く減らせることがわかった。仮に従来の第一原理計算を用いて、同様の解析を実施しようとすると20年はかかるが、あらかじめ用意したが教師データを、深層学習によって学習させた「学習済みモデル」を用いたMatlantisでは、約1週間で済んだという。e-fuelを効率的に生産できれば、石油を使わないだけでなく、CO2の大気中への排出を減らせることになる。

利用例2 水素キャリア用の触媒開発

 

水素を使った燃料電池自動車や水素エンジン車を普及させれば持続可能社会を実現できるという言葉が先行している。しかし肝心の水素をどのように調達するかが課題になっている。現状は輸入に頼らざるを得ないが、輸送のため容積を減らすには零下253度で液化するために膨大なエネルギーを消費する。一つの代替手段として水素をトルエンと反応させることにより生成するメチルシクロヘキサン(MCH)として輸入する技術の実用化が進んでいる。MCHは常温、常圧で液体のため輸送しやすい。水素を利用する際は、MCHを多段階の反応で水素とトルエンに分解する。
 ENEOSはMCHから水素をより効率的に分離する脱水素反応(図1)の触媒開発を進めている。そのためには多段階の素過程から成る分解反応を正確にシミュレーションする必要がある。第一原理計算では分解をシミュレーションするのに約1年を要した。今回、Matlantisを用いて約半日でほぼ同等のシミュレーション結果を出すことができた。今後の触媒開発にMatlantisを生かせると期待している。

図1 : 白金触媒上でMCHの脱水素反応が起こっている様子

利用例3 潤滑油添加剤の開発

モーターや工作機械の摺動部には潤滑油を用いて動きやすくする。しかし鉄鋼材料などの表面は潤滑油だけでは摩耗・焼付きを完全には抑えられず、潤滑油に添加剤を加えている。添加剤が摩擦によって分解する化学反応(図2)により、鉄の表面に被膜を形成し、摩擦や摩耗をおさえることに役立っている。

図2 : 鉄表面で潤滑油への添加剤が分解して潤滑被膜が形成される様子(動画)

これまでに、潤滑被膜を形成する添加剤として有機リン化合物のトリメチルフォスファイト(亜リン酸トリメチル:P(OCH₃)₃)が用いられている。トリメチルフォスファイトの作用機構解明には、摩擦場における化学反応を解析する必要がある。ENEOSは、そのような従来技術では1年以上かかる解析を、Matlantisによって半日でこなすことに成功した。今後、さらに良質の潤滑油膜を形成する添加剤開発に役立てる。

利用例4 全固体蓄電池の固体電解質の開発

自動車や電子機器に搭載するリチウムイオン電池に代表される蓄電池の開発では、電極間に挟む電解質を可燃性の揮発性有機化合物から安全な固体に置き換える動きがある。この全固体蓄電池の固体電解質にはリチウムイオンが液中に匹敵するかそれ以上に動きやすい性質が求められる。このようなリチウムの動きやすさを第一原理計算でシミュレーションすると解析結果が出るまでに数カ月を要するが、Matlantisでは約二日で第一原理計算と同等の解析結果を得ることができるという。従来技術では約300℃以下の計算は難しいが、Matlantisでは150℃以下まで解析できた。今後、Matlantisの高速性を活かして、様々な候補材料を探索できることが期待される。

(注)図は全てPreferred Computational Chemistry(PFCC)から提供された。

小間番号 : 2W-09-D  

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