Nano Insight Japan

【科学技術振興機構(JST)A-STEP】
ナノレベル空間分解能の高感度イオンセンサ~pL空間インピーダンス計測による病原性微生物検出~

2020年12月7日

JST

本研究開発は、国立研究開発法人 科学技術開発機構(JST)が推進する研究成果最適展開支援プログラムA-STEPの支援の下で行われてきた。A-STEPは、大学・公的研究機関で生まれた国民経済上重要な研究成果を基にした実用化を目指す研究開発の技術移転支援プログラムである。A-STEPには研究開発フェーズに対応して3つのステージがあり、nano tech 2021にはその中のステージⅠ(戦略テーマ重点タイプ・産業ニーズ対応タイプ)の中のテーマ「ナノレベルの分解能と識別感度を持つイオンセンサの実現に向けた技術開発」で採択され研究開発を進める次の3課題の研究グループが出展する。
① 標準CMOS集積回路とMEMSプロセスによるスマートイオンセンサ技術の開発
  (名古屋大学、株式会社メムス・コア、長瀬産業株式会社)
② CMOSセンサ技術とMEMS技術を融合した高精細イオンイメージセンサ開発(豊橋技術科学大学、浜松ホトニクス株式会社)
③ 電子線検出によるイオン分布のナノイメージセンシングシステム(静岡大学、株式会社アブコ)
このなかで①は4096個のセンサを集積したチップを開発し、その表面空間のインピーダンスを数秒で測定する携帯型小型装置を実現しており、「pL空間インピーダンス計測による病原性微生物検出」の題名で出展している。感染症対策への新しい手段の提案であり、以下、本稿ではこの研究開発成果を紹介する。なお、A-STEPの本課題遂行の企業責任者は、(株)メムス・コア 代表取締役専務 小切間 正彦氏、研究責任者は 名古屋大学 名誉教授 中里 和郎氏、実施期間2015~2020年である。

1.pL空間インピーダンス計測システムとは、その特長は

図1の写真に示すように、標準CMOS LSIチップ上にMEMSプロセスにより電極を試料液に露出する対となる窓を設けたセルのアレイ(64×64セル)を形成し、図1の右図のセル構成図に示すように、対となる2つの窓の間の試料液のインピーダンスZを測る装置である。各セルが測るのはセルの表面上のpL(ピコ リットル =10⁻¹²L=10⁻⁹cm³)の空間のインピーダンスである。

図1: オンチップ・インピーダンス・センサアレイ(4096センサ)チップ写真と単位センサの構成図

本センサシステムの構成技術の特徴は、汎用のCMOS LSI技術の活用と、病原性微生物を電子回路のインピーダンス素子と見なし電子回路処理技術と直結したことにある。これによるオンチップ・インピーダンス・センサアレイは、装置としては携帯可能な小型(図2)、扱いが容易、ネットワーク連携(IoT、Big data)などの優位点があり、また、微生物検出においては培養不要、試薬不要、前処置不要、リアルタイム検出などの極めて特徴的な優位点がある。図2に示す開発装置は、チップ価格10万円、スマホ並みのサイズで重さ240g、生菌検出限界100 CFU/mL、検出所要時間10分である。図3はセンサアレイを用いてpL空間インピーダンスを集積した2次元イメージの例である(食塩水の濃度分布をリアルタイムで観測)。

図2: 開発装置とチップの装着および試料液注入法

図3: チップ表面空間のインピーダンス分布例

2. 病原性微生物のインピーダンスとしての検出原理

病原性微生物の検出原理として次の2つがある。
(1) 微生物による電極遮蔽
図4の模式図に示すように、センサ電極の試料液と接する窓に病原性微生物が入ると電流の通路が狭まって、抵抗が増大し、キャパシタンスの減少が起こる。図4右部に示すように、被測定物がウイルス、細菌、原虫のいずれの場合でも、現在の半導体技術で1分子サイズの電極形成が可能である。
(2)病原性微生物の誘電分散によるインピーダンスの変化を検出
被測定試料のインピーダンスは、図5に示す等価回路で表される。病原菌は球殻構造になっているので、外側の細胞膜のキャパシタCmと細胞内部の液のキャパシタCcと抵抗Rcで構成され、されに細胞外の液のキャパシタCsと抵抗Rsが加わって構成される。ここでCcは誘電分極によるキャパシタであり、周波数を高めていくと誘電分極の動きが固定してキャパシタンスとして効果を発揮するようになる。この誘電分散と呼ぶ現象を検出することで、病原性微生物を検出する。

図4: 電極遮蔽の説明と被測定物種類に対応する電極サイズ

図5: 病原菌の等価回路

3.試作インピーダンスセンサによる測定例

図6に大腸菌の検出例を示す。この実験では、顕微鏡観察を並行して行っており、この測定実験では、数個の菌がセンサ電極付近に認められた。即ち数個の菌が検出されることが確認された。図は左から、抵抗値の増大、キャパシタンスの低下、誘電分散の変化を示している。
上記は種類を問わない生菌の検査の例である。生菌を特定して検査する場合の検出前の作業は、抗体ビーズを使用して、抗体ビーズに特定菌を結合させ(約10分)たあと、ビーズ以外を除去する洗浄作業を行うだけである。従来技術のように1日以上かかる増菌培養が不要であり、測定時間が大幅に短縮される。

図6: 数個の大腸菌の検出例

4.今後の予定

今後、数年かけて実用化の予定で、今年から新たにチップ開発拠点を設け、装置製造は(株)メムス・コアが担当し、マーケティングは長瀬産業(株)が担当し、研究開発を推進する。先ずは、工業・製薬用の水処理等の市場への進出を目標として、製薬会社、水処理会社、食品会社など数社で菌管理、モニタリングの検討を行っており、今後は 感染症対策などヒト、健康、医療の分野にも展開を考えている。
nano tech 2021では、目標市場の想定顧客に本技術・製品を紹介し、その応用についてご議論いただき、新しい適用分野のご提案を頂くことを期待している。

(注)図は全て名古屋大学提供

小間番号 : 1W-H15 

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