Nano Insight Japan

【生体分子計測研究所】
ナノスケールの生体分子や化学反応を動画で捉える高速AFM 〜オンリーワンを目指してユーザー目線で性能・機能と使いやすさを追求〜

2019年1月11日

住友金属鉱山

高齢化社会の進展に伴い、認知症への関心が高まっている。その一つであるアルツハイマー症の原因物質であるアミロイドβタンパク質の構造変化が高速原子間力顕微鏡(AFM)で捉えられた。アルツハイマー症は、脳内でアミロイドβタンパク質(Aβ)が線維化することで発症する。Aβが溶液内で線維構造を伸長する過程の動画撮影に成功し、さらに、線維構造が周囲の環境によってらせん型と直線型の間で変化することが明らかにされた(PNAS May 24, 2016 113 (21) 5835-5840)。

高速AFMはライフサイエンス、ナノテクノロジーなど様々な分野で用いられる。ミオシンVはアクチンフィラメントと呼ばれるタンパク質のレールの上を移動するモータータンパク質である。高速AFMによって、交互に足を出して歩くように動いていることが、初めて可視化された(図1)。ゲノム編集で注目されているCas9タンパク質の研究において、ガイドRNAと結合したCas9がターゲットDNAを切断する過程が詳細に観察された(Nature Communications 8, Article number: 1430 (2017))。脂質膜上に作成したストレプトアビジン二次元結晶は格子が網目状に見え、欠陥部分がブラウン運動によって動く様子も観察された(図2)。物質科学分野での活用例を挙げれば、アルミニウムに塩酸を添加すると、アルミニウムの表面に気泡とみられるナノスケールの粒子が発生し、さらに別の場所ではアルミニウムの一部が表面から剥がれてゆく様子が観察され、腐食反応の詳細が可視化されている(図3)。

図1: モータータンパク質ミオシンVの歩行運動

図2: タンパク質二次元結晶中の空隙点欠陥のブラウン運動

図3: 塩酸によるアルミニウム表面の腐食

これらの動画は、株式会社 生体分子計測研究所(RIBM)の提供する高速AFM ”NANOEXPLORER®”(図4)によって観察された。AFMは、カンチレバーの先端に保持された微小な探針で試料表面を走査することで形状や物性を観察する。多くの市販AFMでは1フレームの画像を取得するのに数分から数十分必要とするため、酵素反応や化学反応腐食のような1秒以下のスケールで進む変化を可視化することはできなかった。RIBMは金沢大学で開発された技術をもとに、最速で毎秒20フレーム(走査速度50 ms/フレーム)での画像取得を可能にした。20フレーム/秒の走査が可能な標準スキャナ(最大視野0.7 μm×0. 7μm)に加え、より広い視野の観察が可能な広域スキャナ(最速1フレーム/秒、最大視野4 μm×4 μm)と超広域スキャナ(最速0.1フレーム/秒、最大視野30 μm×30 μm)も提供されている。

図4: NANOEXPLORER® SS-NEX(サンプルスキャン型)

高速AFM観察の実現には、高速画像・動画撮影には、高速スキャナ、高速制御、カンチレバーなど多数のブレークスルーとなる開発が必要だった。例えば、高速スキャナの開発ではピエゾ駆動で高速に動く試料ステージから生じる振動を抑制するために、重心が動かない設計がされている。また、カンチレバーは高速走査でも十分なデータを取得できるように共振周波数の高いものを使用する必要がある一方で、試料へのダメージを減少させるためにバネ定数を低くする必要がある。高い共振周波数と低いバネ定数は相反する関係にあるため、この2点を同時に実現することは難しかった。そこで、長さ、幅、厚さを微小にしたカンチレバーを開発し、これを実現した。

2015年には、プローブスキャンタイプ高速AFM PS-NEX”の販売も開始した。PS-NEXは、プローブが高速で移動することで操作を行う。PS-NEXは光学顕微鏡に組み込みことが可能となり、AFM像と光学顕微鏡像の同時観察が可能となった(図5左)。また、SS-NEXではサンプルスキャンタイプの性質上、試料サイズが限定されていたが、PS-NEXでは、スライドガラスやシャーレ上の試料も観察できる。これらによって、より広いニーズに対応できる高速AFMとなっている。例えば、PS-NEXと蛍光顕微鏡を組み合わせることにより、組織中の蛍光標識した部位の変化を蛍光像と形状像で追跡できる。PS-NEXの開発の最も大きなブレークスルーは、高速で移動するプローブにレーザーを追従させ、検知するミラーチルト方式の開発であった(図5右)。SS-NEXでは赤色レーザーを使用していたが、蛍光顕微鏡との同時観察を念頭に、蛍光観察を妨げないために、波長790 nmの近赤外レーザーに置き換えた。

図5: 動画AFM×光学顕微鏡 PS-NEX(左)とミラーチルト方式(右)

RIBMは、高速AFMをユーザーフレンドリーにする様々な仕掛けの開発に取り組んでいる。例えば、SS-NEXのカンチレバーの取り付けをネジ止めからバネ式にして交換を容易にした(図6)。また、パソコンに操作ガイドを順次表示し、その指示に従ってAFMを操作することで、初心者でも簡単にナノスケールの動画観察ができる「ガイド機能」搭載ソフトも開発中である(図7)。

図6: バネ式カンチレバーホルダ

図7:プラスミドDNAの動画観察における操作ガイド

 

生体分子計測研究所は、旧通商産業省工業技術院のアトムテクノロジー研究体の成果をもとに、工業技術院ベンチャー第一号として1999年につくば市で創業した。高速AFMなどの開発・製造・販売を行う精密機器事業に加え、子会社の株式会社 エルエイシステムズを通してNMR, MRIのソフトウェアやアクセサリーを提供する。また、広島の研究所で食品・環境の先端計測解析を行い、ナノ・バイオの受託計測サービス・共同研究を行っている。社員にナノ・バイオの研究者も多く、オンリーワンを目指して開発する装置にはユーザー目線での使いやすさや機能を盛り込んでいる。

(註)図は全て生体分子計測研究所提供

小間番号:6C-02

>>最新フロアレイアウトはこちら

>>出展者 / 製品・技術一覧はこちら

このウィンドウを閉じる